01
Sei Shiraishi
Actor
気持ちと向き合うための余白
もともと、声優に憧れていたそうですね。
そうなんです。アニメが好きっていうのもありますが、思えば小学生の頃から文章を読むこと、音読することが好きで。なんとなく声を使う仕事への憧れがあって、お芝居もそこに通じるものがあって興味を持ちました。
今回、撮影をご一緒して淡々とした雰囲気が印象的でした。
仕事の現場では、個人的な感情を表に出すことは少ないかもしれません。もちろん、家族や友人の前ではワガママも言うし、感情的になることもあります。ただ、現場に入って衣装に着替えたり、メイクをする過程で無意識にそうしたスイッチが入ります。高校生の頃にスカウトされたことがきっかけでこの仕事をはじめましたが、当時からよく「もう少し明るく元気に」と言われることがあって。ずっと「これが普通なのに」って思いながら過ごしてきて。最近では、逆にそのスタンスを崩してたまるかって意地になってきているくらい(笑)。
そうやって自分のペースを保っているからこそ、さまざまな役柄に入り込む余白があるようにも見えました。
意識している訳ではないですけど、そういう所はあるのかもしれません。例えば、すごくハイテンションな役があったとして、その要素が自分自身に全く無ければ、演じることは難しいと思います。やっぱり、自分の中にないものは表現できない。きっと、自分の中に、私自身も気づいていないような感情があって、そうした些細な機微に向き合ったり、こぼれないように掬っていくことで演技につなげている部分があるのかなと。そうした意味でも、個人的な感情は守りながら、余白を空けておく。そのスペースがあるからこそ、吸収することができるし、すでに持っていたものを大きく膨らませるようなことができる気がしています。
役作りには、どのようなスタンスで向き合っていますか?
いつも、役のことを守り切れるのかなと自問自答しています。自分自身が役の感情に寄り添うこともそうですが、ひとつの役柄でも、監督や他のスタッフと私の解釈が少し違うこともあります。そうしたときに、他人の客観的な意見を柔軟に取り入れながら、自分の芯をブラさないようにするにはという試行錯誤の連続です。もちろん、他の人の貴重な意見も大切です。けれど、演じる上では、やっぱり自分自身が本当に納得していることが重要だと思っています。それが演技に出ると思うので。元々、じっくり考えた上で行動したいタイプということもあって、自分が納得して決めた後はそれを貫きたい。ブレるのは好きじゃないですね。
頑固な部分もある。
天邪鬼で少しひねくれた所もあるかもしれません。自分でもよく分からないのですが、常に流行りに逆行したいという気持ちがあって。SNSもようやくはじめたくらいですから(笑)。
プライベートでは、陶芸をはじめられたそうですね。
雑誌の撮影をきっかけに陶芸教室に通うようになりました。今回の撮影の前にも友人と一緒に行って。パスタ皿やアクセサリーケース、マグカップを作ったりしています。いつもは、信楽焼などに使われる強度のある赤土を使っていて、今回の撮影ではじめて手捻りの手法にチャレンジしました。手捻りは自由度が高くて、自分が思い描いた造形を追求していくのがおもしろいですね。幼い頃から手を動かしているのが性に合っていて、無心で没頭する時間がリフレッシュになっています。
それは、編み物や読書も同じ。
はい。小説も好きで、よく村田沙耶香さんの作品を手に取ります。強烈な世界観に没頭して、時間があるときは1日で読了してしまいます。文章を読んで、自分の頭の中で想像していく過程が好きだし、言葉そのものの表現にも興味があります。あとは、本屋さんにも定期的に足を運ぶようにしていて。明確に探している本がなくても、ふと目に止まったコーナーが、昔興味を持っていた事柄だったりして。日々忙しくしていると、自分が興味を持っていたことでもいつの間にか忘れてしまうこともある。そうやって忘れかけていたことや新しい興味に出会える場所ですね。
白石さんの原動力や日々大切にしていることについて教えてください。
最近落ち込む出来事があって。正直、かなり凹んでいました。それをどうやって前向きに捉えようかと試行錯誤していて。ちょうど自分のために使える時間が増えたこともあって、これからのための行動をしようと。英会話をはじめたり、免許を取ったり。当たり前だけれど、英語が話せるだけで、世界のいろいろな人とコミュニケーションが取れる。ひとつの語学を学ぶことで拓ける可能性って、すごく大きいなあと。漠然としていた物事に意識を向けてみると自然と前向きな気持ちになれました。年齢を重ねるにつれて、仕事のことや今後のことを重く捉えてしまっていた自分がいたのですが、少し視点を変えるだけで、毎日をもっとおもしろがることができる。なかなか難しいですけど……。そうやって日々過ごしていけたらと思っています。
Profile
白石 聖
Sei Shiraishi
俳優として数々の映画・ドラマに出演するほか、ファッション誌でモデルとしても活躍。BSスカパー!「I”s」ヒロイン、フジテレビ「世にも奇妙な物語」主演、2020年にフジテレビ系ドラマ「恐怖新聞」で連続ドラマ初主演。以降、最近では2022年にNHKドラマ10「しもべえ」、NHK夜ドラ「カナカナ」などに出演。ラジオ 文化放送「白石聖のわたくしごとですが…」パーソナリティを担当するなど、活躍の幅を広げている。
Cooperation: 陶芸教室TETO
02
machìna
Musician
自分と向き合って、はじまる
音楽に興味を持ったきっかけはなんですか?
幼い頃から、いつか自分の好きな音楽を作りたいと夢みていました。大学ではジャズを専攻していたんですが、その枠に囚われない自由な演奏スタイルは、今の私の音楽にも通じています。私の場合、音を生み出すのに楽器ではなく電子機器を使いますが、演奏スタイルは同じだと思っています。
ジャズミュージシャンの中には、使う楽器にとても強いこだわりを持つ方も多いですが、マキナさんが電子機器を選んだのはなぜでしょう。
私は、Eurorackというモジュラーシンセサイザーを使っています。このシンセサイザーはとにかく自由度が高いんです。どう音を作り出すか、どう演奏したいか、そこにモジュールを組み合わせて好きなように自分の音を追求し続けることができる。それモジュールシンセサイザーにハマった理由ですね。
一見すると複雑で操るのが難しそうですね。
パフォーマンスのときはすべてをコントロールするけれど、逆に曲づくりのときはコントロールしすぎないようにしています。そうすることで、意図せずおもしろい音が生まれたりして電子機器ならではの魅力が発揮される。ピアノだったら、Cを押せばCの音になるけど、このシンセサイザーが実際に音を出すにはいくつかのステップが必要で。そのステップを入れ変えたりすることで、新たな音を見つけるのが好きなんです。
楽曲の中には、自然の音を取り入れているものもありますね。
自然の音は、誰にとっても親しみのあるもの。パフォーマンスの際も、曲と曲の間をスムーズにつなげてくれます。昨年、自分と向き合う時間が欲しくて長野県・白馬にある山小屋で1ヶ月間過ごしたんです。そこでの経験があって、世の中の物事、私の人生で出会ったすべての出来事がどのように繋がっているのかを理解できるようになった。より強くなれたと感じています。山での生活は、自分の思考が音になって聞こえてきそうなくらい静かで豊かなものでした。
自分と向き合うことで音楽への変化はありましたか?
滞在期間中は、絶対に毎日新しいものを作るって決めていて、音楽機器の電源を切ることは一度もなかったですね。土砂降りで気分が上がらない日もあったけれど、それでも何か作ろうと思って、その時に頭の中で考えていることをそのまま録音したり……。それが、アルバム『Compass Point』の「Silence, Bugs and Cat」という曲。このアルバム全曲とEP『Trusted』は、山小屋での時間に作ったものです。
他にはどんなインスピレーションを受けましたか?
哲学がとても好きで。カール・ユングの『Red book』とカール・セーガンの『Cosmos』という2冊を読みました。1冊は自分の内面を見つめるための本で、もう1冊は世界に対してオープンであるための本。『Red book』はアルバム『Compass Point』全曲に影響を与えたし、「End This」という曲の歌詞はこの本を読み終わった直後に書きました。
マキナさんは韓国出身で、日本に住んで7年になるそうですね。東京を訪れたきっかけはなんですか?
日本でK-POPが注目されはじめた頃、韓国の音楽事務所がK-POPのアーティストを日本にたくさん送り出していて、私はそのひとりでした。駆け出しの頃は、楽曲制作に介入することはできなかったけれど、日本にいる期間で、いろいろなヴィンテージシンセサイザーの名機に出会うことができて。それがきっかけで、モジュールシンセサイザーを使って音楽を作りたいと思ったんです。それから、自分自身が納得のいく表現を追求するためにアルバム『archipelago』を完成させました。
アルバムの中に、「Reboot」(再始動)という曲がありましたね。
この曲は、当時の変化を反映したものです。私は行き詰まったと感じたら、環境を変えたくなるタイプ。山小屋もそうですが、新たな場所や旅の過程は、多くのインスピレーションを与えてくれます。コロナ禍で旅ができないときは、友達と話したり、映画や本などでrebootしていましたね。
ひとつの場所に定住するか、常に旅をして身を置く環境を変えていくか。将来的にはどちらの自分を想像していますか?
家を持たず旅を続ける人もいますが、私にはたくさんの音楽機材があるので家は必要ですね。東京には自宅兼音楽スタジオがあって、猫も一緒に暮らしています。東京も素晴らしいし、最近パフォーマンスを行ったベルリンも肌に合いました。でも結局、音楽があればそこがホーム。私にとって重要なのはそれだけなので。
今後控えているプロジェクトがあれば教えてください。
ベルリンでのライブにとても刺激を受けて、テクノのアルバムを作ろうと思っています。コロナ禍で自分と向き合う時間を経て、今後はより多くの人とコミュニケーションを取りながら新しいエネルギーを得ていきたいと思っています。
Profile
machìna
マキナ
韓国出身のアーティスト。東京を拠点に楽曲制作を行うほか、国内外のイベントでパフォーマンスを行うなど多方面で活躍。ジャズに造詣が深く、その自由な演奏スタイルを踏襲しながら、モジュラーシンセサイザーを用いたオリジナルな楽曲を制作。テクノロジー、アナログシステム、ボーカルのコラボレーションを通じて、独自のエレクトロニック・ミュージックのスタイルを確立している。
Cooperation: Five G music technology / ADRIFT
03
Kenta Cobayashi
Artist
いつもの日常に宇宙を見つける
撮影した写真にオリジナルな加工を施すスタイルは、どのように生まれたのですか?
最初は海外のドキュメンタリーやスナップに憧れて写真をはじめたんですが、次第に自分のバックボーンやオリジナリティについて考えるようになって。それで思ったのが、プリクラやデジタル編集。育ってきた環境の中で身近だったものを取り入れることで、自分らしいリアリティが出せないかと考えました。それに、元々絵を描いていて、その手触りと写真をミックスしたものができたらと思ったことがきっかけですね。
プリクラ、懐かしいですね。確かに、小林さん世代の加工の原体験は、そこにあるかもしれません。
今や、SNSで写真を加工するのってグローバルスタンダードだけど、僕らはその前にプリクラというローカルなカルチャーを通じてそれを体験していたっていうのがおもしろいですよね。同時に海外の写真家について勉強する中で、テクノロジーが写真に与える影響をアカデミックに探求している方々がいることを知って。僕は、もう少し身近で日常的なコンテクストの写真表現を追いかけてみようと。
小林さんの作品を見たとき、デジタル感と同じくらい日常的なものを受け取りました。
この手法をはじめて感じていたのが、編集する、加工するという行為の中に、複雑で大きな広がりがあるということ。いつもの日常生活の中で撮影したものがあって、それをまた違う環境や時間にいる自分が加工する。写真を撮るという誰にでもできることに、違う視点や時間軸を加えることで、その奥に宇宙のような広がりを感じられるんじゃないか。そんな感覚や奥行きを表現したくて、最近は立体作品にも取り組むようになりました。
当たり前の日常が新鮮に感じられる。
そうですね。多次元構造というか。例えば、Photoshopなどの加工ツールって、こんな表現がしたいとか、こうしたら使いやすいっていう長年の試行錯誤があってできていますよね。画像編集の歴史があって、そこには人が何かを見るときの認知や理解の仕方みたいなものがシステムとして組み込まれている気がして。そうしたツールを使って制作することで、長い時間をかけて探求されてきた認知の構造を作品に取り込めるのではと考えました。もちろん、今もそういうツールは加速度的に進化していて、そこに自分自身も並走して変化を続けていくというのもおもしろい点ですね。
都市の写真が多いのはなぜでしょう?
正直なところ、都市に限らず表現の幅を広げたいと思うこともあるんです。ただ、やっぱり東京って良くも悪くもモチーフとして自分の表現に合っている。街にある光やテクスチャー、直線と曲線が複雑に絡み合った様子や、コンクリートと植物の葉っぱのコントラスト。無秩序にいろいろなものが重なり合っているのがおもしろいんです。
東京の街とデジタルのフィーリングはすごくフィットしていますよね。
本当にそうで。仕事でシチリアの海辺を訪れたことがあったんですが、真っ青な空に真っ白な海辺みたいな風景は掴みどころがなくて難しい。もともと、渋谷に住んでいた時期に今の手法をはじめて、いつも日常的に出会ったものに手を加えるスタイルなので、東京を撮るということはすごく自然な流れでした。
時代や街の変化を感じながら制作していくんですね。
1番の理想は、正直な表現。いつも、そのときのリアリティを作風にこめられたらいいなと思っていて。アナログやデジタルというよりは、それが今の時代にとってリアリティがあるかどうか。東京と言っても、その中に生きる人たちには一人ひとりの物語があって、そういったものをどういう視点で捉えるかによって意味が変わってくる。断片的なビジュアルではなくて、そこにストーリーが紡がれていくような作品や展示を理想としています。
長く住んだ東京から、湘南に移られたそうですね。
5年前に引っ越して、仲間と一緒にいろいろと新しいことを学んでいます。最近は、歴史に興味があるんです。今やっている活動や作品を狭い時間軸だけじゃなく、もっと広い視野でみてみたい。そうすると、もしかしたらこれまでの歴史の繰り返しをしているかもしれないし、僕の考え方や人生の過ごし方もそう。常に勉強しながら、今の時代を生きたいと強く思います。
Profile
小林健太
Kenta Cobayashi
1992年神奈川県生まれの写真家、アーティスト。主な個展に「自動車昆虫論/美とはなにか」(東京、2017年)、「#smudge」(東京、2021年)、「THE PAST EXISTS」(東京/2022年)、「Tokyo Débris」(東京/2022年)、主なグループ展に「GIVE ME YESTERDAY」(イタリア/2016年)、「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」(水戸/2018年)、「COMING OF AGE」(パリ/2022年)など。主なコレクションに、サンフランシスコアジア美術館(アメリカ)がある。2016年に写真集『Everything_1』、2020年に『Everything_2』がNewfaveより発行。
Cooperation: 株式会社光伸プランニング / 有限会社キララ