アニエスベーと5人の表現者たち
agnès b. with Mieko Kawakami
映画、音楽、アート…アニエスベーが大切にしてきたスピリットに共鳴する、独自のスタイルを持つ5人の表現者。
最新コレクションを纏い、それぞれの表現活動やオリジナリティについて語る連載をThe Fashion Postで公開中。
第2回に登場するのは、日本の現代文学を代表する小説家のひとりである、川上未映子。今や世界各国から注目を浴びる彼女が、一人の女性として声を上げること、作品を世に生み出すことに対して、どのように向き合っているのか。今年、自身が経験した辛い体験を経て、今の川上が考える、オリジナリティについて。
−小説家でありながらも、声を上げることで働きながら生きる女性として多くの女性をエンパワーメントしている川上さんですが、問いやモヤモヤを表に出てきちんと言葉で伝えようと思い始めたタイミングやきっかけがあったのでしょうか?
私が若い頃は、もちろんMe tooという言葉もなかったし、フェミニズムはやや特権的な学問であり、私たちが感じている生きづらさとうまく接続できないものでした。自分の母親やコミュニティを見ていると、やっぱり何かおかしいよなと思うようなことが、小さい頃からずっとあるわけですが、ストリートで生きてると、何を読めばどうなるのかもわからなかった。そこから、だんだんインプットしたりフィードバックしたりして、それにはどういう理由があって何がおかしいのかを言語化できるようになってきたのが、10代、20代の嵐のような時期から出た20代の後半だったと思います。私は31歳の頃に文筆の仕事を始めて、出産を経たのですが、とりわけ出産は、それまでの生き方が通用しなくなるというか、本当に大きな経験でした。勉強やそうした心身の変化をつうじて、だんだんと表現ができるようになっていったんだと思います。
−独自のスタイルを持っているという点でアニエスベーと共鳴する川上さんですが、アニエスベーに対する印象と、オリジナリティをどう捉えているかを聞いてもいいでしょうか。
アニエスベーは高校生の時から憧れのお洋服で、シンプルでモノトーンで変わらないんだけれど、逆説的に、それが変化なんだという気持ちにさせてくれる服だなと。例えば10代の頃からのアニエスベーのカーディガンを着ていて、もうくったりしているんだけれど、それを着てる時が、いちばん魅力的に見える友人がいて。その変わらなさが、着る人の変化をその時々でバックアップするんですよね。シワが増えたりシミが増えたり、それこそ病気をしてちょっと体調が良くなかったり、いろんな変化があっても、変わらないでいてくれることで、オリジナリティと響き合ってる幸福な関係を結べる。オリジナルっていうことは確固としたものがあるってことじゃなくて、やっぱり変化そのものなんですよね。だから、オリジナリティを発揮しているお洋服。こんなふうに生きてきた自分というものを可視化してくれる、唯一無二のお洋服だと思います。
−変化するものであることを前提に、川上さんのオリジナリティを言葉にするとしたら、どういうふうに表現されますか?
クリエイターは0から1を生み出す仕事だと言われるけど、私はあんまりそうは思わなくて。なぜなら、自分が考えた言葉を使っているわけではないし、全部組み合わせだし、引用だよねという気持ちがどこかにあります。だから、オリジナルなものって、自分が生きて死んでいくこの体と記憶ぐらいしかないんじゃないかな。そして、オリジナルであるってことは、やっぱり人と共有できないものだと思う。みんながそれぞれのオリジナリティを持っていて、メタファーとして誰かのオリジナリティに触れたとときにいいなと感じるけれど、実際はオリジナリティの影を見ているだけかもしれない。でもそれは悲しいことでも何でもなくて、変化していく体感は自分にしかわからないことで、その状態は、みんな一緒だと思います。
model: mieko kawakami
photography: naoya matsumoto
styling: sumire hayakawa
hair & makeup: yuko aika
interview: tomoko ogawa
edit: yuki namba
b. yourself
アニエスベーと5人の表現者たち